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安永研究室での生物
安永研究室では、電子顕微鏡を用いて生物の構造を解明し、機能が生まれるのか?ということを研究しています。ここでは、生物のどのような所に注目して研究を行なっているのかを説明します。
まず、
皆さん、もちろん、野口英世という研究者を知っていると思います。小学生のころ、図書館の伝記を読んだという方も多いのではないでしょうか?
では、野口英世の有名な研究成果の一つは何か覚えていますか?
多くの方は、「黄熱病の発見」だと答えるでしょう。しかし、実際に野口英世が見つけたのは、黄熱病に似た症状を引き起こすワイル氏病の病原菌だと言われています。
未だに、南米諸国やアフリカ諸国ではみられる地域がある黄熱病ですが、黄熱病を引き起こすものは黄熱ウイルスです。40-50 nm(nm は 1/1000000000 m)です。なので、0.00005 mmですね。さて、野口英世が活躍した時代はまだ、電子顕微鏡はなく、光学顕微鏡時代です。なので、ウイルスを見ることは不可能でした。
安永研のターゲットは?
安永研では、主に骨格タンパク質や、モータータンパク質と呼ばれるモノを研究対象としています。では、主な骨格タンパク質とモータータンパク質をご紹介しましょう。
アクチン繊維(Actin filament)
アクチン繊維は主に、筋肉の構成成分として知られています。生物が動くためには必須なタンパク質です。この、アクチン繊維とミオシンが集まり、サルコメアと呼ばれるものが作られ、サルコメアが集まり、筋原線維になり、そして、筋原線維が集まり筋繊維、そして、筋繊維が集まり皆さんが知っている筋肉になるのです。
また、アクチン繊維は細胞の中でも重要な役割を果たしています。多細胞生物は細胞が集まって出来ていることはご存知だと思います。アクチン繊維は細胞内で骨格の役割を果たします。言うなれば、細胞の大黒柱なのです。
微小管(Microtubule)
微小管は細胞の中のレールです。細胞の中で必要とされる部品は、中心部で作られて、外側へ運ばれていきます。そこで、部品を運ぶための電車のレールとして微小管が使われます。
生物への思い
安永自身の生物への思いは、「動き」にあります。研究を始めた頃から、「動き」のなかでも「時空間制御」と「エネルギー変換」の観点から研究を進めてきました。
「動き」
生物にとって、「動き」は、重要な機能の一つです。受動的な動きに加えて、能動的に、制御される動きが生物の内外で生じています。どうやってこうした動きを生み出しているのでしょうか。しかも、その大きさは既に「ナノ」レベルです。今後、マイクロからサブマイクロへと人が作り出すものの大きさが到達するにつれ、生物が進化の過程で獲得してきた様々なアルゴリズムやアーキテクチャは、未知のシステムの宝庫であると考えています。人間が考えついたシステム(ある意味、形式知として設計図から創り出されたもの)と生物が産みだしてきたシステム(未だ我々がわらかない部分をもつ暗黙知。生物科学の目的はこのシステムを解き明かすこと)。後者のシステムが理解できれば、新しい「連結」として、イノベーションを生み出すと考えています。
時空間の制御
通常、酵素は、反応速度という時間の制御を行うものだと考えられています。私は、もっと広義に捉えて、時空間を制御するものと捉えることが必要だと考えています。
細胞の中、特に、真核生物の細胞では、酵素は単純な拡散だけで話がすみません。
細胞骨格を通した1次元的な情報と物質の伝達は、核周辺と細胞周辺、細胞内小器官との間で、情報・物質を確実に配送するための仕組みです。
細胞膜は、3次元空間を異なる領域に切り分ける方法です。そのことが生物の生物たらしめることだと言われてきました。しかし、単純な閉鎖系ではなく、物質(エネルギー含む)、情報を選択的に取り込むことができる能動的な膜です。従って、単純な3次元拡散ではない事に注目したいと思います。
更に、膜の上では、膜タンパク質達が2次元的な拡散を行っています。実際には、更に、それが部屋(コンパートメント)に区切られているという話もあります。2次元拡散は、3次元拡散と異なり、異なるタンパク質が互いに出会うことのできる場を提供してくれます。一方で、1次元拡散とは異なる多様性も生み出してくれます。多様性と確実性のほどよい組み合わせを示してくれるのが細胞膜という2次元拡散の存在だと考えています。
エネルギーの変換
もう一つのキーワードはエネルギー変換です。「動き」を生み出すためには、ATP(アデノシン三リン酸)の加水分解という化学反応により生じる化学エネルギーを、力学的エネルギーに変換する必要があります。変換しているものは、ミオシンやダイニン、キネシンといったモータータンパク質と呼ばれるタンパク質です。これらが、その対応するフィラメント型タンパク質であるアクチンや微小管の上を滑る(走る、歩く)ことによってその動きが生じています。
その仕組みは、マクロな機械と同じでしょうか。もっと、熱揺動などを効率的に利用しているのではないかという説もあります。学生時代からずっとその疑問が解決しないまま、現在に到っています。多くのことが分かれば分かるだけ、その思いは募ります。一方で、構造生物学の立場からは、エンジンがいくつかの構造を繰り返しとることと同様のメカニズムが提唱されてきます。熱揺動などをなかなか構造生物学の立場からは取り込みにくいためにこのようなことになっています。
電子顕微鏡という、実像を直接観察できる道具を使って、構造の揺動をなんとか見出したいと考えています。